結婚

一夫多妻制社会の具体例としてとりあげられることが多いのがイスラーム社会である。ここではイスラームにおける一夫多妻制を説明するが、イスラーム世界は地域的には非常に多様な世界からなり、それらの地域が必ずしもイスラーム的規範のみから婚姻制度を確立しているわけではなく、地域的慣行なども影響する点は注意が必要である。これらについては地域別の婚姻制度についても参照。 イスラームにおける一夫多妻制は法源をコーランとするイスラーム法的制度である。男性は4人まで妻を娶ることができる。しかしコーランの規定上、夫は妻を保護し扶助を与える義務があり、またそれぞれの妻のあいだに差異を設けることは決して許されない。これらの条件を満たせないときは一夫一妻が奨励され、夫が義務を怠ったりそれぞれの妻の扱いに差異を設けた場合は離婚申し立てと賠償の根拠となりうる。 イスラーム社会で一夫多妻制が制度として確立しているのは、イスラーム共同体の初期の社会状態が背景にあると説明されることが多い。正統カリフ時代は戦争が相次ぎ、女性は故郷に残されたまま寡婦となることもあった。この際の経済的扶助手段として導入された、とされる。また教義面からはイスラームは宗教的に結婚と社会的再生産を奨励するため、女性の結婚する権利を特に重視する。しかしながら戦時など一時的に男女間の人口不均衡が起こった際に女性が結婚できにくくなる可能性があり、この際に女性の結婚権を保障するために一夫多妻制が導入されたとも説明しうる。また世界的に広く認められるように、男性の選好および家の血統保持の観点から、一夫一妻制で子をなせない場合に男性が妻以外の女性と子をなすことは多いが、これを制度的に確立することで、婚姻制度に一定の安定性を持たせたものともいえる。 一般的にはオリエンタリズム的な乱脈で淫靡なイメージがイスラームの一夫多妻制から想起されているが、大部分は外部世界の性的妄想である。イスラームにおける婚姻制度は法的にきわめて厳格であり、二人以上の妻をもつ場合の男性の経済的負担は非常に大きいものとなる。したがって一定以上の社会的地位と経済的実力を持たない限り二人以上の妻を持つことは困難である。歴史的にイスラーム社会においても二人以上の妻をもつのはごく限定的なものであり、それ以上は大商人などの非常に限られた層だけであったことが明らかになっている。 近代に入ると、社会の安定に伴って一夫多妻は減少し、さらにヨーロッパ法の導入にともない、イスラーム社会においても一夫一妻がほとんどとなった。また女性差別であるという批判も受けるようになった。これに対しては理念的に女性差別の制度ではないとしつつも、社会秩序維持上必ずしも必要な制度ではないとしてムスリムが大多数の国家でも法制的に禁止したり、一夫多妻の婚姻にかかわる審査を非常に厳格化して事実上不可能としている国もある。一方でヨーロッパ近代的な批判への反発から、イスラーム主義者のあいだでは一夫多妻制をイスラーム的な特色として推奨する立場もあらわれ、特にインドネシアなどでこの傾向が強い。
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